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評価:
堤 未果
岩波書店
¥ 735
(2008-01)
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結構売れているみたいなので、読んでみました。
で、そこらへんの映画やドラマを見るより、よっぽど面白いですね。
売れているわけです。
どちらかというと、社会に出て働いている人、家族を持っているお父さん、お母さん方に読んでもらった方が刺激があるかも知れません。
もちろん、大学でのゼミ生でのディスカッションにももってこいかも。
あとがきの文章に、著者のこの憂うべき世界への願いが込められている感じがします。
「そして、この本を最後までお読みくださったみなさまと、未来を選び取る自由を決して手放さないと決めた世界中の仲間たちへ、愛をこめて」
ココから先は、うだうだな文章ですので・・・
自分の世代は第二次ベビーブームの終期にあたります。
受験戦争は浪人生も多く、過熱していました。
高校生活は、合格者数至上主義と教育理念との板ばさみの、二枚舌教育で嫌悪感しか抱いていませんでした。
今でこそ学校の先生も大変だなとは思いますが、その欺瞞の生活から抜け出すには試験の点数で先生に口出しさせないようにするしかありませんでした。
就職では超氷河期と言われて、これまた強烈な競争でした。
優秀な人が、かなり苦労しているのも見てきました。
普通だったら就職できそうな人が、出来なかった状態も見てきました。
最近は就職活動は「楽」という言葉で表されるらしいですが・・・。
そんな時代で育ってきたので、多分私の世代は「新保守主義」のDNAを埋め込まれた世代であり、「自己責任社会」「市場原理社会」といった時代のキーワードは、何の抵抗も無く受け入れられるものでした。
しかし、私たちの世界は軋み始めています。
それは、今の仕事でも感じていることでもあります。
その軋みを、新保守主義の牙城、アメリカを舞台に表したのがこの本です。
市場原理の大きな歯車が、教育・福祉だけにとどまらず、軍事分野にも組み込まれてきており、大きな所得身分社会で下層社会に編成された人々は、収奪の憂き目に会っています。そこは、這い上がることのできない、無限のあり地獄のような世界です。
はたしてこれが「市場原理社会」が本当に目指した社会でしょうか。
むしろ、マルクスなどの社会主義が危惧した状態がここにあるのではないでしょうか?。
しかし現在、共産主義国家の事実上の敗北を受けて社会主義の警鐘はみられなくなっているように感じます。
このような「市場原理社会」「民間至上主義」の登場は、社会福祉主義体制の、資本主義世界における行き詰まりに、一つは起因しているのではないでしょうか。
でしたら、私たちは今後どのように社会の進路を取ればよいのでしょうか。
自分は「新保守主義」のDNAを持っているとは思いますが、過度の「市場原理主義」には、やはり疑問を持っています。
「市場の失敗」を「政府が補完する」という、社会における対抗的分業の基本的なスタンスは、崩せないのではないかと思っているからです。
やはりどうしても、官が入っていたほうが良いと思える事はあります。
そこはどうしても費用対効果で考えると疑問がでるところでもありますが、一律にそれだけの尺度で物事を推し量るのは危険です。
(フリーライダーの問題も政府の政策を難しくしている所ではありますが・・・)
今は振り子が、福祉体制から市場体制へのブレの時期ではないかと思います。
どちらかにブレ過ぎた政策を取っていては、ココから先の未来に禍根を残す事を、この本は予感させます。
みなさんたちの身近の政治家はどうですか?
団体の首長さんの政策はどうですか?
票集めの福祉バラマキ政策や、効率至上主義の「民間委託」を、てんでバラバラにお題目のように唱えてはいませんか?。
どこにお金を使い、どこは効率を求めるのか、その手綱さばきがはっきり示せない首長は危険な感じがします。
私たちは、著者のあとがきにあるように、未来を選び取る自由を手放さないように、放棄しないようにしないといけませんね。