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評価:
勝鹿 北星,浦沢 直樹
小学館
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(1998-11)
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「自分を虫けらだと思って、
そこから這い上がろうとする奴は、
虫けらといわない。
それは人間だ。」
漫画マスターキートンの中に「狩人の季節」という作品があります。
主人公キートンのSAS時代の教官・ウルフが、麻薬がらみの犯罪に絡んでいると疑われ、警察の調査にキートンが協力するというお話です。
その教官・ウフルは逃亡の過程で、一人の売春婦を助けるために殺人を犯します。
そして、その売春婦・クレアの家に身を寄せます。
クレアはコカインに手を染めており、現実から逃げるためにウルフの目の前で使用しようとしますが、ウルフに制止されます。
「何するんだよ、コカインなんだよ
ヘロインの何倍もするんだから」
「そんなもの吸う奴は虫けらだ」
ウルフは、これを契機にクレアの家を出て行こうとします。
しかし、彼女は床を見つめながら彼にこう言います。
「あんた、私が薄汚い売春婦だから抱く気もしない・・・そうよね。
そうよね・・・
あたし、虫けらだもんね、
虫けらよ・・・」
振り返り、そんな彼女をみつめるウフル。
ウフルは、彼女が犯罪組織にがんじがらめになっている現状から助かりたがっていることを感じ取ります。
そして、彼はこの街での仕事をすませたら、彼女にこの街より連れ出すことを約束します。
彼は、仕事を済ませるために彼女の家のドアに手をかけます。
そして、彼女にこう言います。
「・・・一つだけ言っておく
自分を虫けらだと思って、
そこから這い上がろうとする奴は、
虫けらといわない。
それは人間だ。」
この作品は、この後「獲物の季節」「収穫の季節」と続くきます。
この作品群の最後のシーンで、クレアはあるお店の窓際でお茶を飲んでいます。
そこの窓から一匹のウサギが見え、店主が彼女にこう言います。
「ウサギ・・・
哀れな生き物ですよ。
一番狩られやすい・・・。
クレアは店主に言います。
「いいえ、そんなことはないわ。
ウサギだって、追いつめられると勇敢に戦うのよ。」
冒頭の台詞は、マスターキートンにしては直球な台詞です。
しかし、自分はなかなか気に入っており、何かあきらめそうになった時には手帳に記載しているこのセリフを読み返したりします。
大きな困難であろうが、日常のちょっとしたことであろうが、何かに立ち向かう姿に人間としての本当の勇気と尊厳が見えるのかもしれません。
そして、このような姿勢がより世間で認められるようになればと思います。
困難に立ち向かう世界の全ての人に。